このアプリの記録の分析は、思いつきではなく、睡眠医学と時間生物学で提唱されている手法にならっています。
ただし、iPhone だけで分かることには限りがあります。脳波も、体温も、本当に眠っていたかどうかも、iPhone には分かりません。ですので、このページでは手法ごとに、もとの定義と、このアプリの計算が違うところを、ひとつずつ書きます。
このページのアプリの画面は、説明のために自動で作った見本の記録で撮っています。実際の人の記録ではありません。
名前があるものだけ、名前を出します。名前のないものに、それらしい名前は付けません。ここに挙げた論文は、このアプリの計算のもとになった考えかたです。論文がこのアプリを認めた、という意味ではありません。
1. 小さな音から、少しずつ ── 目覚めかたの考え
眠りの深さで、聞こえかたが変わる
睡眠の研究では、眠りの段階によって「音で目が覚める最小の大きさ(聴覚覚醒閾値)」が大きく違うことが、1960年代から繰り返し確かめられています。
深い眠り(徐波睡眠)のときは、かなり大きな音でないと脳は反応しません。いっぽう、浅い眠りやレム睡眠のときは、小さな音でも気づきます。眠りは一晩のうちに、深くなったり浅くなったりをくり返します。
このアプリは、起きる時刻になると、森の小鳥の声をほとんど聞こえない大きさから始めて、約15分かけて少しずつ大きくします。浅い眠りに入ったところで、小さな音に気づいて目を覚ます――そのときを待つ考えかたです。最後に、鶯のはっきりした声が鳴ります。
- Williams HL, Hammack JT, Daly RL, Dement WC, Lubin A (1964) Responses to auditory stimulation, sleep loss and the EEG stages of sleep. Electroencephalography and Clinical Neurophysiology 16:269–279.
- Rechtschaffen A, Hauri P, Zeitlin M (1966) Auditory awakening thresholds in REM and NREM sleep stages. Perceptual and Motor Skills 22:927–942.
- Rosa RR, Bonnet MH (1985) Sleep stages, auditory arousal threshold, and body temperature as predictors of behavior upon awakening. International Journal of Neuroscience 27(1–2):73–83. doi:10.3109/00207458509149136
音の種類も関係する
2020年に発表された研究(オーストラリア RMIT 大学)では、単調な「ピピピ」という音より、メロディのある音で起きた人のほうが、起きた直後のぼんやり(睡眠慣性)が少なかったと報告されています。小鳥の声を選んだ理由のひとつです。
- McFarlane SJ, Garcia JE, Verhagen DS, Dyer AG (2020) Alarm tones, music and their elements: Analysis of reported waking sounds to counteract sleep inertia. PLOS ONE 15(1):e0215788.
※ これらは、睡眠と音の関係についての研究です。このアプリの目覚まし方式そのものの効果を確かめたものではありません。
2. 記録の分析 ── もとの定義と、このアプリの計算
同調の位相角(phase angle of entrainment)
- アプリの中:起床記録「日の出に合わせて起きた日」、小鳥の観測所「眠りと日の出」
- もとの定義:体内時計のある時点と、光を浴びる時刻との間隔。
- このアプリの計算:体内時計は測れないので、「起きた時刻 − 日の出」で代わりにします。目安であって、体内時計そのものではありません。


- Emens JS, Yuhas K, Rough J, Kochar N, Peters D, Lewy AJ (2009) Phase angle of entrainment in morning- and evening-types under naturalistic conditions. Chronobiology International 26(3):474–493. doi:10.1080/07420520902821077
睡眠中央時刻(mid-sleep)・クロノタイプ
- アプリの中:昨夜のかたち(輪)の「眠りの真ん中」
- もとの定義:寝ついた時刻と起きた時刻の、ちょうど中間。その人の体内時計の位置の目安。
- このアプリの計算:「おやすみ」と「とめる」の中間です。寝つくまでの時間が入るので、本当の睡眠中央時刻より少し早めに出ます。

- Roenneberg T, Wirz-Justice A, Merrow M (2003) Life between clocks: daily temporal patterns of human chronotypes. Journal of Biological Rhythms 18(1):80–90. doi:10.1177/0748730402239679
社会的時差ぼけ(social jetlag)
- アプリの中:小鳥の観測所「曜日ごと」
- もとの定義:休みの日と勤務日で、「睡眠」の中央時刻がどれだけずれているか。
- このアプリの計算:「布団」の中央時刻で計算します(眠った時刻は分からないため)。曜日ではなく、「めざましの曜日に鳴った朝」と「それ以外」で分けます。
- Wittmann M, Dinich J, Merrow M, Roenneberg T (2006) Social jetlag: misalignment of biological and social time. Chronobiology International 23(1–2):497–509. doi:10.1080/07420520500545979
睡眠規則性指数(Sleep Regularity Index, SRI)
- アプリの中:小鳥の観測所「曜日ごと」
- もとの定義:24時間ずれた2つの時点で、眠り/目覚めの状態が同じである確率。0〜100 で、100 は毎日まったく同じ時刻。
- このアプリの計算:体の動きを測る専用の機械(アクチグラフ)ではなく、「布団にいた時間帯」で計算します。夜中に目が覚めていた分は入らないので、本来の値より高めに出ます。眠りの質ではなく、規則正しさの数です。

- Phillips AJK, Clerx WM, O’Brien CS, Sano A, Barger LK, Picard RW, Lockley SW, Klerman EB, Czeisler CA (2017) Irregular sleep/wake patterns are associated with poorer academic performance and delayed circadian and sleep/wake timing. Scientific Reports 7:3216. doi:10.1038/s41598-017-03171-4
主観的な睡眠の評価(Consensus Sleep Diary)
- アプリの中:朝の「めざめ」の7段階、小鳥の観測所「めざめの推移」
- もとの定義:朝いちばんに、その晩の眠りを自分で評価して書き留める。専門家が形をそろえた、国際的な睡眠日誌。
- このアプリの計算:7段階のボタンにしました。段階の数や言葉は、この日誌そのものではなく、日本語で選びやすいように作った独自のものです。「朝その場で答える/後から足せない」という形だけ、この考えにならっています。

- Carney CE, Buysse DJ, Ancoli-Israel S, Edinger JD, Krystal AD, Lichstein KL, Morin CM (2012) The Consensus Sleep Diary: standardizing prospective sleep self-monitoring. Sleep 35(2):287–302. doi:10.5665/sleep.1642
眠ろうとした時刻(lights out)
- アプリの中:昨夜のかたち(輪)、起床記録
- もとの定義:睡眠日誌は「何時に布団に入りましたか」と「何時に眠ろうとしましたか」を別々に聞きます。布団の中で本を読んだり携帯を見たりしていた時間を、眠りの時間と混ぜないためです。
- このアプリの計算:あなたに聞かずに推し量っています。「おやすみ」のあとロックがかかって、そのまま15分ロックが解かれなかったら、その「かかった時刻」をそれとみなします。iOS はアプリに「画面がついた」を教えてくれないので、使えるのはロックの合図だけです。パスコードを設けていない iPhone では合図が来ないので、この時刻は記録されません。
- Carney CE ほか (2012)(上と同じ論文)
就床時間(Time in Bed, TIB)
- アプリの中:小鳥の観測所「布団にいた時間」、起床記録「この14日」
- もとの定義:就床時間(TIB)と、総睡眠時間(TST)は別のものです。
- このアプリの計算:このアプリが知っているのは TIB(布団にいた時間)だけです。TST(実際に眠っていた時間)は分かりません。だから画面では「睡眠時間」ではなく「布団にいた時間」と書いています。

- Time in Bed (TIB) / Total Sleep Time (TST) — 睡眠医学で一般に使われる言葉
3. 計算の道具
統計の道具
- 7日移動平均(7-day moving average):その日を含む直近7日の平均。材料がそろわない最初の6日は、線を描きません。
- スピアマンの順位相関(Spearman’s rank correlation, ρ):「小鳥の採点」の重みを、あなたの答えから学ぶのに使います。
- 中央絶対偏差(median absolute deviation, MAD):ばらつきの物差し。とびぬけた1日に引きずられません。
どれも統計の基本の道具で、特定の論文の手法ではありません。

くらべて分かったこと ── 言い切るまでの決まり
音の種類や、布団にいた時間の長さで、朝の答えがちがうか。アプリはくらべますが、すぐには言い切りません。
- 傾向が出はじめています:くらべる2つの組が、どちらも5回以上になったとき。「まだ偶然かもしれません」と添えます。
- はっきりした傾向:どちらも15回以上で、差がばらつきの2倍以上、しかも7段階で0.6以上ちがうときだけ。


日の出・日の入りの計算
- 通信せず、いまいる場所の緯度・経度から、iPhone の中だけで計算しています。秒まで出します。
- NOAA Solar Calculator / Jean Meeus, Astronomical Algorithms
4. このアプリが作ったもの
小鳥の採点
これは、提唱されている手法ではありません。私たちが作ったものです。だからこそ、計算のすべてを、アプリの「採点のしくみ」の画面で見せています。

50点=いつものあなた、という自分を基準にした点です。ほかの人と比べる点でも、医学的な評価でもありません。
小鳥が、あなたの朝を覚えるまで
「いつものあなた」が分かるには、朝の数が要ります。答えた朝が増えるにつれて、小鳥の呼び名が変わっていきます。
| 答えた朝 | 呼び名 | |
|---|---|---|
| 0〜14 | 練習中 | 採点はまだ出ません |
| 15〜59 | 見習い | 採点が出はじめます |
| 60〜99 | 一人前 | 「いつものあなた」の基準が、60朝ぶんで満ちます |
| 100〜179 | 達人 | |
| 180〜259 | 博士 | |
| 260〜364 | 教授 | |
| 365〜 | 伝説の小鳥 | 四季をひとまわり |
呼び名は、答えた朝の数だけで決まります。朝の記録を自分で消さないかぎり、下がることはありません。
おことわり
このアプリは医療機器ではありません。眠りのことで気になることがあるときは、医師にご相談ください。
