小鳥の森へ通うようになって、しばらくしてからのことです。
森に入ると、たまに聞こえてくるとてもかわいい声がありました。
ピピー ポピューイー

小鳥の森の入口で聞こえたピピポピュイ
高いところから、はっきりと響いてきます。ほかの鳥の声にまぎれません。よく通る、澄んだ笛のような声です。
聞こえるたびに、見上げました。
けれど、姿が見えないのです。
声はすぐそこにあるのに、どの枝にいるのか分からない。首が痛くなるまで見上げて、それでも見つからない。そういうことが、何度もありました。

その鳥の名前を知ったのは、ずっとあとのことです。
イカルというそうです。ネットで調べました。
体は思ったより大きく、太くて黄色いくちばしを持っています。その声の大きさは、そのくちばしから来ているのかもしれません。
昔の人は、この声を言葉に置きかえて覚えたそうです。「お菊二十四(おきく・にじゅうし)」「月・日・星(つき・ひ・ほし)」——そんなふうに聞いた人たちがいました。聞きなしといいます。
私には、ずっと「ピピー ポピューイー」と聞こえていました。
どれが正しいということはないのだと思います。同じ声を聞いて、人によって違う言葉になる。それがおもしろいところです。
姿の見えない鳥を、私は録音機で待つことにしました。
山に入って、機械を仕掛けて、翌日か翌々日に回収して帰る。
家に戻って、その録音を再生します。森にいたときには気づかなかった声が、いくつも入っています。遠くのほうで鳴いていた鳥、風の音にまぎれていた声。
そして、イカル。

【録音機の木箱】
不思議なもので、家で聴くほうが、よく聞こえるのです。
森の中では、目が忙しい。どこにいるのか、あれは何の鳥か。探しているあいだ、耳は半分しか働いていません。
目を閉じて、録れたものだけを聴く。そうして初めて、その声がどんな形をしているのか分かってきました。
いまでも、小鳥の森でイカルの姿を見たことは一度もありません。
声だけを、何回も持ち帰っています。
姿を見なくても、その鳥のことを知ることはできる。録音を始めてから、そう思うようになりました。
朝の目覚ましに使っている「小鳥の声めざまし」にも、小鳥の森で録った声が入っています。
次は、録音機を入れている木箱の話を書こうと思います。作ってもらったこと、山に置いてきた夜、動物にちょっかいを出された朝のこと。
岐阜の山あいから、羽賀明人

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